2013年の記事

非嫡出子に対する相続分を2分の1とする民法の規定が違憲であるとした、9月4日の最高裁判決の影響が注目されています。

判決文は、判決以後の相続と判決時点で未分割となっている事案に関してその効力が及ぶとされ、さかのぼって過去の事案が違憲とされるものではないとしています。

しかし、非嫡出子側からは「違憲無効状態の民法」にもとづいて行われた遺産分割協議そのものが、「錯誤により無効」と主張されることが十分考えられます。

仮に錯誤無効の訴えが認められた場合、遺産分割協議のやり直しとなり、減額された側は「更正の請求」、取得財産の増加した側は「修正申告」となります。

問題なのは、遺産分割のやり直しは税務上「贈与」として認識され、財産の取得分が増加した側に「贈与税」が課されるという点です。

ただし、財産の取得分の減る方つまり嫡出子側に「贈与の意思」があるとは到底考えることはできないため、従来の常識通りに直ちに判断できないようです。

近い将来、民法は改正されるでしょうが、税務上は単純に「将来の問題」とは言えないかもしれません。

 

 

来年4月に予定されている消費税の引き上げに伴い、消費税率引上げ後に住宅を取得した者のうち一定要件を満たす者に、現金を給付する「すまい給付金」制度の概要が自民党の調査部会で固まりました。

中低所得者を対象に年収に応じて10万円~30万円の現金給付を行うという制度です。中古住宅でも適用可能ですが、宅地建物取引業者が売り主になった場合のみ適用があり、個人間売買は不可という縛りが設けられる見込みです。

また住宅ローン控除制度とは異なり、現金取得者に対しても一定要件を満たすことによって給付を受けることができるそうです。 具体的には年齢50歳以上でかつ年収の目安が650万円以下など要件を満たす場合に限られる見込です。

平成26年4月から6月にかけて住宅を取得する予定の人は、平成24年の収入が記載された平成25年発行の「課税証明書」によって給付金の適否および金額が決められるとのことです。

消費税率引き上げ前の駆け込み取得によるメリットと、来年度拡充される住宅ローン控除、そして「すまい給付金」制度のメリットを注意深く比較することが、住宅取得予定者には求められます。

 

 

消費税率が2段階に分けて引き上げられる予定であることを踏まえ、消費税の価格転嫁法が、平成25年10月1日から施行されます。

中小企業者が消費税を価格にスムーズに転嫁できるように定められた法律であり、「総額表示」義務の時限的な撤廃もこの中に含まれています。

値札の張替えなどの事務負担を軽減するために、平成25年10月1日から平成29年3月31日までの期間、「○○円(税抜き)」「○○円+税」「○○円+△円(税)」などの表示が認められます。

また、税抜き価格部分を色を変えたり、文字を大きくすることは不当表示とされてきましたが、10月1日から上記期間はみとめられるとのことです。

財務省は表示方法が、総額表示と誤認されないためのガイドライン案を公表し、パブリックコメントを求めて、より具体的な表示方法の「しばり」が確定します。

 

 

会社創業者など事実上会社をけん引してきた人物が、代表権を返上し平取締役などに就任する際、退職金を支給するケースがあります。 これを「分掌変更による退職金の支給」と言います。

代表権を返上すること、非常勤になること、給与は従前のおおむね半分以下にすること、重要な経営方針決定に関与しないこと、などの厳しい要件をクリアしてはじめて退職金の損金算入がみとめられます。

先日、国税不服審判所の裁決で、納税者にとって厳しい判断が示されました。

非常勤役員となった元代表者は、給与も3分の1程度に減額し、経営判断の根本に関わるアドバイスも行っていなかったといいます。おおむね上述した損金算入の要件を満たしているとも考えられる事案だったようです。

課税庁はこの元代表者が、主力商品の製造管理に関する技術指導を行っていたこと、会社の発行済株式の半数以上を所有していたことから、会社において重要な業務を行い、影響力ある地位を占めていると認定し、退職金を損金不算入としていました。

不服審判所も当局の見解を支持しています。

主力商品の製造管理のアドバイス行っていたとしても、それは熟練者が後継指導をしていたと考えれば、退職後の行為として妥当ではないかとも考えます。また会社に対する影響力をはかる基準として持ち株比率を持ち出すのは、いたずらにハードルを引きあげる判断ではないかと考えます。

経営の根幹にかかわっているかどうかは諸事情を総合判断しての結論であるとは思いますが、報道されている範囲内では納税者に酷な判断であるという印象を持ちました。

 

 

7月の税務当局の人事異動も終わり、税務調査の依頼の電話がかかってくるようになりました。

今年から国税通則法の改正とともに、当事務所の顧問先に対する税務調査前の事前通知は例外なく行われています。 ところが報道によると、この事前通知を行うかどうかについて、課税庁側に有利な抜け道が用意されており、これを使うかどうかは各税務署の「姿勢」にかかっているのだそうです。

国税通則法の事前通知の規定には、「税務署等が保有する情報から、事前通知をすることにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあると認められる場合」には、事前通知せずに税務調査ができる旨が書かれています。 この規定を根拠に過去に申告漏れや書類不備が指摘されたケースなどは事前通知が省略される事案が発生しているそうです。

せっかくの法改正を空洞化させるような行政実務は厳に慎むべきであると思いますし、国税通則法に拠った対抗策も検討しておかなければならないと考えます。

 

 

相続税法改正の影響で、首都圏を中心に二世帯住宅への関心が高まっているというニュースが大きく取り上げられていました。

4階建てで賃貸借スペースもあり、同居による小規模宅地特例と、貸家評価の減額などをねらった物件が紹介されていました。

首都圏の一等地ならば、大変な相続税節減効果が見込めるでしょう。

ところで、このような事例を聞くにつけ案じるのは、相続人の平等は保たれているのか、不満を抱く相続人はいないのか、という点です。

最近の裁判事例で、次のようなものがありました。

遺言に基づいて、ほとんど唯一の相続財産である賃貸建物の全部をひとりの相続人が相続しました。ところが他の相続人が遺留分減殺請求を求める訴訟を起こし、これが認められて建物は結局、共有持分となったそうです。

当初全部建物を取得した相続人は、この判決の翌日から2か月以内に税務署に対して更正の請求を行うべきだったものを、これを徒過したため払い過ぎの相続税を国から返してもらう機会を失ってしまいました。

そこで、この相続人は、もう一人の(共有持分を認められた)相続人に対して、「不当利得返還請求権」に基づく相続税負担の請求をする訴訟を起こしました。

東京地裁はこの5月、原告である相続人が税務署に対する更正の請求を徒過した時点で、相続税の課税関係は確定しており、不当利得返還請求権に基づく相続税負担分の請求権は認められない旨の判示をしました。

事後的な対応のまずさもあったとはいえ、やはり遺言のありかたや相続実務のスタート時点で問題があった事案だと思います。

数字ばかりを追う節税が、いかに危険であるかを物語る事案です。

 

 

二世帯住宅の小規模宅地評価減特例について、来年1月発生相続から要件が緩和されることは既報の通りです。また建物について親子で「区分登記」した場合には、親所有分として登記した分に対応する土地のみが評価減の対象になるので登記のあり方には注意をしなければならないことは、前回お知らせしました。

実務家の間では「建物区分所有法1条」には、独立して居住の用に供することのできるものがあるときには、独立して所有権の対象とすることが「できる」、という規定ぶりなので、実際に区分登記していなくても、区分登記できる状態の建物であれば、「建物区分所有法1条に規定する建物」に該当し、緩和の対象外になるのではないかという意見が上がっていました。

財務省はこれに対して、「区分登記できる状態にあるかどうか」ではなく、実際に「区分登記しているかどうか」によって、小規模宅地特例の適用の適否を判断するという見解を明らかにしています。

やはり、登記のあり方に要注意という結論に到達します。

 

 

小規模宅地の特例で二世帯住宅の構造が、内部で行き来できるようなものでなくともよいなど要件が緩和され、来年1月からの相続に適用されます。

朗報ではありますが、建物の登記の仕方によってはで適用される地積に違いが出る模様ですので、この点に特に注意が必要です。

改正政令では、一棟の建物が「建物区分所有法第1条の規定に該当する建物」である場合には、被相続人所有部分のみが小規模宅地特例の対象になることが明らかにされています。

したがって、1階部分が親世代所有、2階部分が子世代所有などと区分登記を行った場合、1階部分に対応する地積のみが小規模宅地特例の対象となります。

二世帯住宅を登記する際には「共有登記」にすることが無難であるといえます。

 

 

消費税率引き上げに備えて、国会で審議されている「転嫁対策法案」に衆議院で修正が加えられました。

新聞等でも大きく報道された「3%値引き」などの表示が禁止されるという規定は修正され、値引き表示でも 「消費税との関連を明らかにしたもの」 のみを禁止するという文言に緩和されました。

したがって、

  消費税還元セール

  消費税相当分キャッシュバック

などの、消費税との関連を明確にした表示は、「転嫁対策法」違反となりますが、消費税との関連表示のない、単なる「3%値引き」は違反とはならないことになります。

国会では衆議院通過にあたって「具体的かつわかりやすいガイドライン」を速やかに公表することを求めています。

 

 

消費税率の引き上げに伴う事業所の事務負担軽減のため、税抜き表示を時限的に認めることなどを盛り込んだ「転嫁対策法案」が国会で審議されています。

このなかで気になるのは、「いつから」「いつまで」税抜表示が認められるかという点です。

まず「いつから」がわからなければ、税抜き表示のパンフレットをどの時点で発注してよいかがわかりません。

麻生財務相の発言などから、今年10月あたりに転嫁対策法の施行日が設定され、税抜き処理もこの施行日からと考えられています。したがってパンフレットの発注はこの施行日を挟んで、旧パンフレットの在庫状況などを見ながら検討しなければなりません。

また、「いつまで」税抜き処理が認められるかについては、平成29年3月31日までとの報道もあります。 つまり10%税率に引き上げられてから1年半は税抜き処理表示で構わないということです。

今年9月までに「経過措置」について、10月あたりに「税抜き表示」ついて、細心の注意を払わなければなりません。

 

 

教育資金の一括贈与の非課税措置については、文部科学省のHPでQ&Aが

公表され、ずいぶんすっきりした腑分けができたように思います。

  非課税措置に関するQ&A
   ↓ ↓ ↓
  http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/zeisei/__icsFiles/afieldfile/2013/04/01/1332772_1.pdf

それでも不明確な点がまだ多く、たとえば入学時に半強制的に学校に対して支払わされる「寄付金」の扱いがどうなのかなどは、あいまいなままです。

教育資金とは文部科学省が定める次の金銭をいう。

①学校等に支払われる入学金その他の金銭

この文言だけを拾うと、文部科学省がOKを出せば寄付金も大丈夫という解釈も可能ですが、「教育目的」の支出かどうかという観点からみると、にわかに怪しくなってきます。

より詳しい取り扱いのQ&Aの公表を望みます。

 

 

国税庁は4月25日付で消費税の経過措置Q&Aを公表しました。

これによると、経過措置の対象として列挙されている行為(工事請負や資産貸付など)であって、契約や慣行によって継続して「収益計上」している場合であれば、旧税率を適用することができるということです。

  国税庁HPはこちらから
   ↓ ↓ ↓
 http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/shohi/kaisei/pdf/2191.pdf 

たとえばコピーのメンテナンス業務を平成26年3月に締結し、1年契約分の対価を一括して受け取り、収益計上した場合には、これに対する消費税率を5%計上して差支えないということです(Q&A 問4参照)。

ここでは「収益計上」する側だけの取り扱いについて述べています。 しかし経過措置の適用期限(平成25年9月30日)ののちに契約を結び、対価の支払いを行った側については、対価を受ける側の経理処理に応じて扱いが異なるとすると、それも妙な感じです。

当局の今後の詳しいアナウンスに注目したいと思います。

 

 

消費税率5%が適用される経過措置について、工事請負契約がその対象であることは周知のことですが、完成前のマンションを購入する契約については誤解が多いようです。

いわゆる「モデルルーム仕様・標準仕様」のマンションを購入する契約は、建物の建築内容につき注文を付する契約でないため、建築請負契約に該当せず経過措置の対象にはなりません。 9月までにマンション購入契約を結んでも、基本的に消費税税率の節税メリットはないというわけです。

ただし、国税庁から公表された法令解釈通達によると、注文者が壁の色やドアの形状などについて特別の注文を付することができるものは、「譲渡を受ける者の注文に応じて建築される建物」に該当することになり、経過措置の対象となることが明らかになりました。

同じモデルルーム仕様の物件でも、オプション付きとそうでないものとでは消費税率の適用が全く違うという話です。 マンションを売る側も買う側も注意しなければならない点です。

 

 

教育資金の一括贈与1500万円非課税枠の設置が確定しましたが、資金使途である「学校等」に含まれる範囲や、それ以外の非課税枠が認められる範囲について、様々な憶測が流れていました。

文部科学省は4月1日付で、非課税措置に係るQ&Aを公表し、非課税枠の適用範囲を明確にしています。

  文部科学省のHPはこちらから
   ↓ ↓ ↓
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/zeisei/__icsFiles/afieldfile/2013/04/01/1332772_1.pdf

これによると、「学校等」に支払うものの範囲として、入学試験検定料、在学証明、成績証明の発行手数料、修学旅行費、遠足費、給食費などが含まれるそうです。

また500万円を上限とする「学校等以外」の支出については、学習塾、家庭教師、水泳教室などに対するもので、「社会通念上相当と認められる金額」に限り、非課税措置の適用を認めるとしています。

また金融機関に対する領収証等の提出方法について、領収書等の日付記載日から1年以内に提出する方法と、記載日の翌年3月15日までに提出する方法のいずれかひとつを選択し、この選択は変更できないとされている点も、要注意です。

 

 

消費税率引き上げに伴う「経過措置」の適用が可能かどうかの判断は、消費税の経理処理にとどまらず、契約総額にも影響するため十分な注意が必要です。

家賃契約は「資産の貸付」に該当し、対価の額の変更を契約で禁止していれば、経過措置の対象となって、9月までの契約分には旧税率5%が適用されると考えられます。

ところが、借地借家法32条で、地価上昇、下落など事情変更があった場合には、賃料の増減請求ができると規定されており、個別の契約上、賃料変更の禁止が謳われている場合でも、増減請求の権利は確保されています。

そこで、家賃契約が「経過措置」の対象となるかどうかが、注目されていましたが、法令解釈通達により、借地借家法32条の存在にかかわらず賃料変更できる規定が契約書に記載されていなければ、「経過措置」の対象となることが明らかになりました。

 法令解釈通達はこちらから
 ↓ ↓ ↓
 http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/kansetsu/130325/130325.pdf

また、この通達によれば、賃料改定を行った場合には、改定後の賃料に経過措置は適用できないのが原則としつつも、賃貸人が修繕義務を履行しないなど「正当な理由に基づく」改定であれば、経過措置の適用は認められるとしています。

このあたりは、今後周知されてゆくものと考えられますが、思い込みでの判断は危険であることを痛感させられます。