2012年2月の記事

平成24年度税制改正で注目される点のひとつに、特定資産の買換え特例の延長があります。

非常に使い勝手のよい「9号買換え特例」は3年間延長されたものの、土地に買い換える場合、買換資産の用途制限と土地面積制限(300㎡以上)が加えられました。

買換資産の用途制限のうち、「賃貸用住宅」が含まれるのか否か、「政令」の内容待ちでしたが、賃貸マンションも「可」となる見込みのようです。

ただし、300㎡要件が課されることで、マンション1室への買換えは困難となります。

なお用途制限により「駐車場」は原則「不可」とされますが、「やむをえない事情がある」場合のみ、特例の適用が認められとされています。 この「やむを得ない事情」とは、例えば開発許可申請を行っており、許可がおりるまでの間、駐車場として利用するような事情を指すのだそうです。

例外規定も厳しいため、駐車場への9号買換え特例適用は難しいと考えるべきでしょう。

 

 

相続によって土地を取得したとき、その評価は当然に相続開始時の時価で算定されます。
一方、この相続によって取得した土地を売却した場合、譲渡所得の計算上、控除できる取得価額は、被相続人の取得価額を引き継ぐとされています。 つまり、被相続人が取得して相続開始までの値上がり益は譲渡所得の計算上控除されません。 このため、相続時までの増加額という経済的価値が相続税の課税対象額と、その後の譲渡所得の課税対象額に二度含まれることになるので、相続税と所得税の二重課税に該当するという主張は根強くあります。

長崎年金訴訟で、相続税と所得税の二重課税の問題を追及した納税者の主張が、最高裁で認められて以来、とくに相続税と所得税をめぐる二重課税について議論が活発になりました。

そのようななか東京国税不服審判所は昨年末、土地譲渡にあたり被相続人生前の値上がり益分を、譲渡所得計算上控除すべきだとする納税者の主張を退ける裁決を下しました。

納税者は、相続開始時までの値上り益相当額は、所得税法9条1項15号の非課税所得に当たると主張しましたが、裁決は、贈与等により取得した資産の取得費等はいわゆる取得価額引継方式を採用していることを理由に、値上り益分も課税対象に含まれると判断しました。

法は被相続人の保有期間中の値上り益をも含めて課税を行うことを予定している、という解釈です。

所得税法の規定ぶりから考えて、裁決の判断は致し方ないと思います。二重課税の議論を深めて、立法に反映させる努力が必要と感じます。

 

 

東日本大震災の義援金に対する所得税確定申告の取扱いで、一部誤解が見られるという報道がありましたのでご紹介します。

義援金等が、国又は地方公共団体に対する寄附金や財務大臣が指定するものなど、一定のものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。

このうち、中央共同募金会の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」など、「特定震災指定寄附金」については、寄付金控除との選択により、「税額控除」の適用も受けることができます。

国税庁HPの東日本大震災義援金についての解説↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h23/jishin/gienkin/toriatsukai.htm

一部、誤解が見られる事案とは、日本赤十字社の「東日本大震災義援金口座」に直接振り込まれた義援金について、「税額控除」が可能と理解されているケースです。

公益性の高い団体の活動への寄付であるため、そのように理解されるのでしょうが、この寄付金に対しては「寄付金控除」の適用のみ認められているため、注意を要します。

税額控除について、中央共同募金会が「可」で、日本赤十字社が「不可」であることには、一般の理解を得られにくいところでしょうが、震災特例法と平成23年度税制改正法案の成立時期のズレなどから、このようなかたちになってしまったようです。

 

 

政府は昨日、社会保障・税に関わる共通番号制度に関する法案(マイナンバー法案)を閣議決定しました。

消費税増税に伴う、低所得者対策である「給付付き税額控除」を導入するならば、共通番号制度は欠かせないものでしょう。 一方で、国民に対する制度自体に対する周知不足と、プライバシー侵害への不安が、法案成立の大きなハードルになることは必至です。

ちなみにアメリカでは社会保障番号(social security number=SSN)が、事実上の国民識別番号として利用されています。 納税者番号、社会保障サービス受給番号としての利用に留まらず、運転免許証取得や更新、銀行口座の開設など、あらゆる場面で個人認証のための手段として使われています。

筆者はアメリカ滞在中、SSNで無作為に選ばれる「陪審員」に当たってしまい、大変な思いをしたことがあります。

わが国で共通番号制度を導入する場合、生体認証を組み込んで「なりすまし」などによる被害を排除することもあらかじめ検討しておかなければならないと思います。 生体認証には当然に「人権」の問題もかかわってきます。

難しい問題にいよいよ手をつけたという感がありますが、拒絶反応だけで議論自体を拒絶することは最も慎むべきことだと思います。

 

 

相続開始後に相続人が行った契約の解除によって、相続財産の法的位置づけが代わるのかどうかについて、興味深い判決が広島地裁で下されました。

この事件は、被相続人が土地建物の売買契約を交わして手付金を受け取った後に相続が開始し、相続人が手付金の倍額を支払って売買契約を解除した後、課税財産を土地建物として申告したケースです。 

課税庁は、課税財産は土地建物ではなく、売買残代金請求権であるとして更正処分をしてきたため、相続人がその取消しを求めていました。

土地の相続税評価額は、一般的に時価の8掛け程度、建物の相続税評価はさらに低くなるのが相続税評価の世界であるため、相続財産が土地建物なのか売買代金請求権なのかによって税負担が大きく異なるわけです。

課税庁の論理は、被相続人と買い手との間には、強固な売買契約履行の意思があった為、相続人の意思や行為に関わりなく、代金債権こそが相続財産であるというものでした。

広島地裁は、事実関係を整理した上で、売買契約の解除は手付契約に基づく解除権の行使による解除であるから、国税通則法23条2項3号の「解除権の行使によって解除された場合」に該当すると認定し、納税者の主張を認めました。

判決によると、手付契約に基づく解除であるから土地建物の売買契約は被相続人が売買契約を交わした日に遡って消滅し、相続開始日においては売買契約が存在せず、売買代金債権も存在しなかったという解釈になります。

相続開始時には契約を解除しうる状態にあり、これに基づいて現に契約が解除されている以上、被相続人の意思や契約当事者との関係は、第二義的な意味合いしか有しないと考えるのが、当然だと考えます。

ちなみに、国側敗訴のまま判決は確定しています。