2012年の記事

安倍内閣組閣の翌日のニュースに、自民党も富裕層課税を検討し始めているというものがありました。

消費税率引き上げに伴い、富裕層にも所得税や相続税で相応の負担をしてもらおうという動きですが、自民党はこれまで相続税増税には強く反発していたはずです。

民主党政権時の、相続税にかかる基礎控除を4割カットというものではなく、3割や2割カットなどの「おとなしい改正」の自民党独自案を作成することを検討するようなのですが、それにしても 「話が違う」 感は否めません。

自民党税調の税制改正大綱は、来年1月下旬をめどに作成される予定です。

税調議論の過程などをオープンにする、民主党政権の残した良きプロセスは今後も継続してもらいたいと思います。

 

 

平成25年度税制改正に向けて国税庁がまとめた意見書の中に、相続税の課税財産の範囲に関する「推定規定の新設」が盛り込まれているそうです。

より具体的には、「相続開始以前の一定期間中に、被相続人の財産を処分または被相続人が債務を負担したもので、その使途が客観的に明白でなく、かつ、その合計額が一定金額以上となる場合には、これを相続人が相続したものと推定し、相続税の課税価格に算入する制度を創設する」というものです。

ゾッとする話だと思います。

相続人には知り得ない、被相続人のプライベートな世界があり、それでも何とか客観的な相続財産の総額をまとめようと努力して申告納税にこぎつけているのが、現在の相続税申告制度の実態です。

それうえで把握しきれなかった財産が具体的に判明した場合には、相続人の努力の及ぶ範囲外であったと納得して修正申告を行っています。

しかし、使途が客観的に明白でない場合の財産について課税される場合には、相続人はとうてい納得ができないでしょう。それは相続人の責任の範疇から外れるものだからです。

死期がある程度読めるようになって、お世話になった人たちに会いに行き、頻繁に食事会をされていた方がおられました。本人の生き甲斐のようになっていたため、家族もいちいち誰と会う約束なのか聞くこともなく、本人の好きにさせていたようです。

また、賭け事の好きな人は、やや羽目を外してお金をつぎ込んでしまうかもしれません。

任意団体などに匿名で多額の寄付をした場合はどうなるのでしょう。

これらに対して、使途が客観的に明白でないために課税対象とする、とした場合には、相続人に対してあまりに酷な制度だと思います。 また亡くなる前の大切な時期に、相続人がお金の使途にいちいち口出しするような関係を作り出すのではないかとも思います。

国税当局は「人が亡くなる」という厳かな現実に対して、いま少し畏怖の念を抱いてもよいのではないかと思います。

課税庁の意見にとどまっているあいだに、早期の再考を促したいと思います。

 

 

「自民党を中心とした政権が誕生する」、そういう前提ですでに税務の話題が進められています。

たとえば、消費税について逆進性を解消するために、自民党は複数税率導入を主張しています。

複数税率が導入されると、益税が問題となっている簡易課税制度の見直しも進められるでしょう。 「みなし仕入率」が実際の仕入率よりも高い業種、例えば不動産業などにはみなし仕入率の見直しが検討されることが予想されます。

また「飲食業」でひとくくりにしている分野も、アルコールを多く扱うかどうかで、仕入率は大きく異なります。 

複数税率が導入されている欧米諸国では、数十の業種区分に細かく分類されているようなので、それに準じるように細かな分類が行われるだろうと予測されています。

財務省もみなし仕入率と実際仕入率との乖離を調査しており、複数税率導入とともに、即座に簡易課税制度の改正に取りかかれる準備をしているそうです。

益税問題が解消することは当然の方向性ですが、分類作業ミスによる損税問題の発生を抑えることにも神経を使ってもらいたいものだと思います。

 

 

弊事務所は、「中小企業経営力強化支援法」にもとづく「経営革新等支援機関」の認定申請を行っていましたが、昨日11月5日付けで、第1号認定を頂きました。

中小企業庁HP↓
http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/2012/1105nintei.htm

今回の認定制度では、税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識や実務経験が一定レベル以上の者を国が認定することで、支援の担い手を多様化・活性化するとともに、中小企業基盤整備機構からの専門家を派遣し、中小企業に対してチームとして専門性の高い支援を行うための支援体制を整備することとしています。

今回の第1号認定を受け、法の趣旨に則って、中小企業の経営革新支援に尽力して参ります。

 

 

平成24年10月1日から平成27年9月30日までの3年間の時限措置として、未納状態となっている国民年金保険料を過去10年分まで後納することができます。

この制度を使って生計一の親族分の保険料をまとめて後納した場合、その全額が支払った当人の社会保険料控除として計上できます。節税効果も大きいことから、制度利用の検討をされている納税者も多いと思われます。

ところが、過去10年分の未納保険料合計額、約160万円が贈与税非課税枠110万円を上回るため、課税庁は贈与税課税の可能性を示唆しています。

保険料を肩代わりしてもらった、配偶者や子に後納保険料を支払うだけの収入がある場合、実際負担者からの贈与であるとして課税対象とするというのです。

時限措置は3年間設けられているため、制度を利用して支払い能力のある親族の後納保険料を負担する場合には、分割納付を検討するのが懸命だと思われます。

 

 

平成24年度税制改正では、「グリーン投資税制」の拡充として、太陽光発電設備等にかかる即時償却制度が導入されました。

来年3月までに設備を取得し、1年以内に事業の用に供すれば、その事業年度に全額が経費になるという制度です。

ところが課税当局の見解では、個人が賃貸マンションを所有しており、その屋上に設備を設置した場合には「全量売電」の売却収入は、不動産所得になるとのことです。

税務上の取扱いは、余剰売電の場合と同様となり、事業所得に対する特例である即時償却は使えない、ということになってしまいます。

設備関連業者は、即時償却を前提とした利回り計算、投資回収期間計算を行って投資提案をしているため、今後一部で混乱が予想されます。

なお課税庁は、11月上旬にも質疑応答集を公表する予定だそうですが、すべての電力を売却する「全量売電」の場合には事業所得に該当するのではないか、と指摘する専門家もおり、この点をめぐって今後、見解の相違が発生する可能性もあります。

 

 

消費税率引き上げによって経営基盤に大きな影響を受けるのは、税率引き上げ相当分を価格に転嫁できない立場の事業者です。

「値決めは経営である」という稲盛和夫さんの言葉を肝に銘じて、価格戦略によって税率引き上げに対処するのが王道でしょう。しかし、医療機関における社会保険診療報酬は、非課税の公定価格であるため、身を守るための「値決め」をすることができません。

かつて消費税率が5%に引き上げられたときには、診療報酬改訂時に税率引き上げ分が加味されました。 しかし、この診療報酬改定が医療機関の規模に関わらず一律な手当であったことから、大規模医療機関を中心に不満の声があげられました。

そこで、今回の税率引き上げに当たって、『社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律』において、この点に配慮する旨の規定が置かれています。

財務省HP↓
http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/sh20120330g.htm#betu

ここで、注目すべき点は、

 「医療機関等における高額の投資に係る消費税の負担に関し、新たに一定の基準に該当するものに対し区分して措置を講ずることを検討し」 (第7条1項ヘ)

の文言です。

高額の投資に対しては、診療報酬において一定の上乗せを行うことが検討されるということを意味しています。
具体的な診療報酬改定によっては医療機関の投資計画にも影響を及ぼす内容です。

 

 

平成25年度税制改正では、事業承継税制の見直しが論点となるようです。

平成20年に導入されたものの、その要件が厳しすぎることで、事業承継税制は敬遠されてきました。実際この3年間で、相続税に関する適用累計数は、わずか348件にとどまっています。

財務省もこの状態を放置することで、制度そのものの存続が危ぶまれるとの認識から、来年度税制改正の論点に取り込む方針のようです。

ちなみに現在、経済産業省、中小企業庁から出されている要望は、以下の項目です。

①親族外承継も対象にすべき

②「役員」退任要件を緩和して、「代表者」退任要件へ

③雇用8割以上継続要件を、5年継続ではなく5年間の平均へ

④5年経過後に、猶予額を全額免除

⑤会社事業資金の担保となっている不動産も対象に

このうち財務省は③の5年間雇用要件について、問題意識を持っており、何らかの改正が行われる可能性があります。

 

 

9月19日東京高裁で、弁護士会の役員が出席した懇親会の経費性につき、注目すべき判決が下されました。

昨年の東京地裁判決では、弁護士会役員として出席した懇親会について、その弁護士の事業所得計算上、いっさい経費性を認めないという判断を下していました。

今回の高裁判決では、弁護士会役員としての活動であっても、弁護士として行う事業所得を生ずべき業務に密接に関係しているとして、経費性を認める判断を下しています。

つまり納税者の逆転勝訴判決です。

裁判所は、弁護士会の公式行事後の懇親会であって、その費用の額が過大でないなどの4類型を挙げて、経費性を認めてよい旨を判示しています。

今回の判決が確定すれば、他の「士業」の経費性の判断にも変更が生じます。

今後の課税庁の出方が注目されるところです。

 

 

臨床検査・医療機器の製造、販売のトップブランドであるアークレイ・グループのアークレイ マーケティング株式会社を、弊事務所職員と訪問しました。

同社会議室での情報交換会では、平成24年度診療報酬改定における、「外来迅速検体検査加算」についてのご説明を受け、同社の糖尿病検査機器などが、開業医の先生方の収益構造改善に対して、一層貢献されることを教えて頂きました。

また、糖尿病検査として用いられる指標が、精緻ではあるけれども日本国内でしか通用しないJDC値のため、日本のガラパゴス化が起こっており、これを改めるため、ようやく国際標準化がすすめられているというお話しは、驚きでした。

私ども事務所からは、消費税率改定に当たって、リース料にかかる消費税がどのように取り扱われるかという話題と、医療業における消費税「損税」をめぐる動きなどについて報告させていただきました。

長時間お付き合いいただきました、アークレイの西村様、入江様、近藤様、本当に有り難うございました。

今後の情報交換会も、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

来年1月から、改正された国税通則法が施行されます。

これにより、更正の請求期間の延長、処分の理由付記、税務調査手続きの見直しが行われます。

課税庁では、これに対応するため長時間の研修を行うとともに、今年10月1日からの税務調査において、事前通知と修正申告の勧奨の際の教示文の交付を先行的に行うそうです。

国税庁HP 「税務調査手続等の先行的取組の実施について」↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/nozeikankyo/senkotorikumi.htm

税務調査の手続きにおいては、実地調査の開始日時、調査場所、調査の目的、調査の対象となる税目、調査の対象となる期間、調査の対象となる帳簿書類その他の物件などを、納税義務者に対して事前に通知することが、法定されています。

また調査の終了に当たっては、国税に関する調査の結果、更正決定等を行うべきと認めた場合その調査結果の内容とその額を、納税義務者に説明するとされています。

10月1日から開始の調査に関しては、一部新制度に則った調査手続きを履行するとのことなので、この時点で税理士事務所も当局のひとつひとつの手続きの確認をすることが必要です。

また、納税者本人にも事前通知が必ず行われ、「事前通知事項の詳細」については、税理士事務所への説明のみでよいかどうかの確認も行われるようですので、この点も混乱がないように納税者への事前確認が必要と思われます。

 

 

今回も法人税調査事案です。

調査対象先企業は、節目の創立記念にあたり、従業員および取引先に記念品を贈呈しました。

この記念品の価額が高額で、現物給与に当たるのではないかという指摘です。

税務上のトラブルが発生しないように、処分価額が1万円を下回ることを確認していましたので、その資料を税務署に持参すると、今度は次の事例に該当するのではないかと指摘を受けました。

 自由に選択できる永年勤続者表彰記念品(国税庁HP)↓
 http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/shitsugi/gensen/03/07.htm

これは記念品について、文字通り「自由に」これが欲しいと希望できる場合の取り扱いを、照会事例として掲げたものに過ぎません。

調査対象法人は、4種類の記念品からの選択という方法を採用していましたが、授与者の希望通りの品物を贈呈することはしていません。

税務署の指摘は、文理解釈上の技術的な誤りではなく、端的に日本語読解力の欠如のなせるわざです。

もともとの記念品が現物給与に該当するという指摘にしたところで、通達の本旨は、儀礼的な要素の強いものであるから課税しない、ただし歯止めはかけるというものだと思います(法基通36-22)。

1万円という金額も、まったく恣意的に通達レベルで定められたものにすぎず、「お上に逆らうと煩いから」、やむなく納税者も配慮しているのが実情ではないでしょうか。

「税務の常識は一般の非常識」の例は、枚挙に暇がありません。

何でもよいから指摘してみて、課税できれば結果オーライという姿勢が露骨に過ぎるように思います。税務署もその見識を試されていることを心すべきでしょう。

 

 

預託金会員制ゴルフ会員権」の譲渡所得にかかる、今年6月の東京高裁判決を受けて、国税庁は従来の取得費の取り扱いを改める旨、HPで公開しています。

国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/golf/01.htm

預託金会員制ゴルフ会員権が会社更生法の適用により、預託金債権の全額を切り捨てられ「プレー権」のみのゴルフ会員権となったとき、これを売却した際に取得費として認識できるのは、「プレー権のみのゴルフ会員権の時価相当額」とされてきました。

HPでは今回の東京高裁判決を受けて、預託金会員制ゴルフ会員権を取得したときのプレー権部分に相当する、もともとの取得価額を「取得費」とすると改めています。

ただし、プレー権につき以下のような条件が認められ、更生手続等の前後で変更なく存続し、同一性を有していると認められる場合の取扱いであることが前提です。

①更生計画等の内容から、プレー権が会員の選択等にかかわらず、更生手続等の前後で変更がなく存続することが明示的に定められている

②更生手続等によりプレー権のみのゴルフ会員権となるときに、新たに入会金の支払がなく、かつ年会費等納入義務等を約束する新たな入会手続が執られていない

なおこの取扱いの変更は遡及適用でき、取扱いの変更を知った日の翌日から2ヵ月以内に請求をすることにより、納め過ぎた所得税の還付を受けることができます。

 

 

2012年8月17日税務調査の顛末

法人税調査で、役員所有土地への法人地代復活を、「利益調整なので否認したい」と税務署が主張してきた件の顛末です。

地代支払い復活について、税務署側の主張が誤りであることを、しぶしぶ認めたのですが、地代の額が「適正ではないと感じる」ので、否認したいと主張してきました。

価額が適正でないという根拠も薄弱なまま、「何でもいいから、なんとかこちらの顔を立てられないか」という言いぐさです。

地代の額を改めて計算すると、いわゆる「通常の地代」の額に該当します。地代の額の根拠を示すと、すごすごと主張を撤回しました。

高齢の、濡れ落ち葉のような調査官の物言いならば、哀れも感じるところですが、まだ年齢も若く、現場の税務職員の模範として自らを律すべき統括官の、これが反応です。

現場の士気も落ちるでしょう。

怒りを通り越して、税務行政の行く末を案じさせるような一件でした。そして、ひょっとすると、このような滑稽な主張を繰り返すのは、それにおとなしく屈している税理士の存在が、原因としてあるのではないか、とも考えました。

 

 

中小企業などが、消費税率引き上げ時に価格に転嫁ができない、いわゆる転嫁問題は経営のかじ取りを危うくしかねないため、経営者が頭を悩ませるところです。そこで政府は、消費税法とは別に「転嫁対策専用の法律」を創設する方針です。

平成元年消費税導入時に消費税法附則に盛り込まれた「独禁法適用除外規定」と同様の規定を設けるほか、取引の中で消費税分を転嫁させないような行為を「違法」であると新法に明記する方針です。

まず消費税分の価格転嫁方法や表示方法に関するカルテルは、これを独禁法の適用除外とするという、平成元年と同様のカルテル除外規定を設けます。

そのうえで、実際に下請けいじめのような実態がないかどうかを調査する権限を、各省庁に設け、違反に対して実効あるペナルティを課せるように法の整備を行うそうです。

政府としては消費税法とは別途に法律を設けることで、転嫁対策に強い姿勢で臨むことをアピールしたいところです。