医療法人・医療関係の税務最新情報

平成29年度税制改正の中で、特に注目される項目のひとつとして、非上場株式の類似業種比準価額の計算方式の変更があります。
配当・利益・純資産の比重を1:1:1に変更し、分母を3にするというものです。
これでは、所得軽減の株価に対するインパクトが減少してしまいます。
さらに厄介なのが、持分のある医療法人の出資評価です。
大綱では言及されていませんが、利益:純資産の比重が1:1に変更され、分母が2に変わると、出資評価の減少効果が激減します。2要素以上ゼロにならない前提で、評価対象年度の利益をゼロとした場合、分母が4のときに比べて分母2では、出資評価は2倍に跳ね上がります。贈与税を払ってでも「出資持分なし」に移行しようとする医療法人のハードルが格段に高くなってしまうのです。今後の具体的な改正に注目したいと思います。

 

 

平成26年度の第6次医療法改正のなかで、「医療法人の経営の透明性の確保」や「医療法人のガバナンスの強化」がうたわれていました。前者では公認会計士等による外部監査の必要が、後者では、MS法人との取引の都道府県への報告が実務上の課題となるため、政令の整備が待たれていました。
この3月25日と4月20日に厚労省の関係政省令が公布され、その全容が明らかになっています。

 

外部監査については平成29年4月2日からの施行で、一般医療法人に関しては負債50億円以上または収益70億円以上という、対象が広範に設定される結果となりました。

 

また、親族関係のあるMS法人との取引については、1千万円以上で費用総額の10%以上を占める取引について毎年の都道府県への報告義務が発生します。医療法人の役員又はその近親者(配偶者又はに親等内の親族)が代表者であるか、議決権の過半数を押さえていれば報告義務が生じますので、これも広範に投網をかけるような制度設計になっています。

 

 

医療法人の出資持分を、出資者全員が放棄し、相続税法66条4項に照らして贈与税が課せられるとして、その場合の贈与税課税の対象額がいくらになるのか。
たとえば出資金相当額を「基金」に振り替えるとして、その出資金相当額が課税対象になるのかどうかについて、明文での説明がなかなか見いだせないため、実務家の判断を迷わせるところです。
 
平成26年1月23日付 厚生労働省医政局指導課事務連絡のなかのQ2に実務上の判断が詳しく載っています。
↓ ↓ ↓
下記アドレスに掲載
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000035432.pdf
 
出資金相当分は贈与税の課税対象から外されるというのが正解です。
厳密な法解釈上は、問題ありなのかもしれませんが、これは課税庁とのすり合わせ済みの文書であることも付言されています。

 

 

平成27年1月、2月の類似業種比準価額がようやく公表されました。

医療法人が適用される「その他の産業」の値が標本会社の入れ替えによってどのように変わるのか、非常に興味深いところでしたが、大幅な評価の引き下げという、思わぬ結論に達しました。
 
今年春に公表された平成26年12月のA値は591でしたが、標本会社の入れ替えによって、平成26年のA値平均は248と半額以下まで下がっています。
出資持分のある医療法人にとって、事業承継対策のとりやすい環境が整ったことになります。
 
標本会社の入れ替えによって、出資評価の基準が大幅に変更されることは予測可能性を阻害する要因として批判されてきましたが、過去2年間の極端な高値と、今回公表値との落差を見ると、特にその思いを強くします。

 

 

医療法人が理事長に対して多額の貸付金を有することは時折見られます。

医療法人の口座から一括して引き落とされる諸経費の中に、私的な支出が混在していり、社会福祉法人への寄付を立替えているうちに、それを精算する機会を逸してしまい、利息とともに雪だるま式に増えてゆくというパターンがあります。

そして、この貸付金がネックになって、特定医療法人や社会医療法人に組織変更ができないという問題を誘発します。

とある税理士法人が、この問題を解決するとして、貸付金を法人の「営業権」として認識し直し、そのように経理処理をおこなったことがありました。

後日、税務調査において、これは理事長に対する債務免除であり、理事長への賞与として源泉所得税の納付義務があるという課税処分を受けます。

問題はここで終わりません。

課税処分を受けた医療法人は、源泉税の課税リスクを説明しなかったとして、税理士法人を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしました。

東京地裁は、医療法人の主張を認め、税理士法人に損害賠償を命じましたが、最近の東京高裁判決では、税理士法人の主張を認める逆転判決を言い渡しました。

医療法人は特定医療法人への移行を切望していたため、かりに源泉税の課税リスクについて説明を受けていたとしても、同様の会計処理を行ったであろうというのが判決理由です。

ことのいきさつをたどっていくと、何とも気の滅入るような事案です。

もって他山の石としたい、というところです。

 

 

平成26年度税制改正大綱における、認定医療法人の相続税納税猶予制度に注目が集まっています。

認定制度そのものは、今後の医療法改正によって輪郭が明らかになるので、本当に「使える」制度なのかどうかは、いまだ明確ではありません。

社会保障審議会医療部会の「医療法等改正案 参考資料」によると、法律に基づく移行計画を策定し、これを「都道府県知事」が認定する制度を「移行促進策」として掲げています。

一方、昨年末に厚労省から出された改正要望に盛り込まれた、相続税・贈与税の納税猶予措置では、納税猶予の要件として相続税法66条4項の不当減少についての判定要件と同様のものとうたっていました。

昨年の厚労省要望と、今回の税制改正大綱に盛り込まれた「納税猶予制度」の違いとして以下の点が挙げられると思います。

① 今回改正は「医療法改正」を受けて導入されるものであること

② 認定制度の施行の日から3年以内に厚労大臣の認定を受ける「期限を切った」
  制度であること

以上の点から、平成25年厚労省要望に見られた納税猶予制度とは、ニュアンスの違ったものになる可能性があります。

逆に、全く同じものであればほとんど使えない制度ということになるのですが。

医療法改正の推移を見守りたいと思います。

 

 

平成26年度税制改正大綱が昨日発表されました。

  平成26年度税制改正大綱↓
  http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/zeisei2013/pdf128_1.pdf

注目したものの一つに「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の創設」があります。

平成25年度に厚労省から出されていた納税猶予制度と同様のものと予想していましたが、実際の文言に当たってみると、どうも様子が違います。

納税猶予の対象となる「認定医療法人」について、次のように記されています。

  認定医療法人(仮称)とは、良質な医療を提供する体制の確立を図る
  ための医療法等の一部を改正する法律に規定される移行計画(仮称)
  について、認定制度の施行の日から3年以内に厚生労働大臣の認定
  を受けた医療法人をいう。(傍線引用者)

「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部を改正する法律」とは、今後国会で審議され制定されるものですが、平成18年の第5次医療法改正時にも同一名称の法律が制定されています。

その新法で、「認定制度」や「移行計画」の詳細が固まる予定であり、大綱では「認定制度の施行の日から3年以内に」厚労大臣の認定を受けることが要件となっています。

これは、制度の施行日から3年間の時限的特例措置という意味で解釈してよいのでしょうか。

そうであるとすると、認定法人の要件についても平成25年厚労省要望に記載されていたものとは、全く異質の制度となることも考えられると思います。

今後の立法のゆくえを注意深く見つめる必要があります。

 

 

消費税率引き上げによって経営基盤に大きな影響を受けるのは、税率引き上げ相当分を価格に転嫁できない立場の事業者です。

「値決めは経営である」という稲盛和夫さんの言葉を肝に銘じて、価格戦略によって税率引き上げに対処するのが王道でしょう。しかし、医療機関における社会保険診療報酬は、非課税の公定価格であるため、身を守るための「値決め」をすることができません。

かつて消費税率が5%に引き上げられたときには、診療報酬改訂時に税率引き上げ分が加味されました。 しかし、この診療報酬改定が医療機関の規模に関わらず一律な手当であったことから、大規模医療機関を中心に不満の声があげられました。

そこで、今回の税率引き上げに当たって、『社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律』において、この点に配慮する旨の規定が置かれています。

財務省HP↓
http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/sh20120330g.htm#betu

ここで、注目すべき点は、

 「医療機関等における高額の投資に係る消費税の負担に関し、新たに一定の基準に該当するものに対し区分して措置を講ずることを検討し」 (第7条1項ヘ)

の文言です。

高額の投資に対しては、診療報酬において一定の上乗せを行うことが検討されるということを意味しています。
具体的な診療報酬改定によっては医療機関の投資計画にも影響を及ぼす内容です。

 

 

今年3月30日付で、厚生労働省医政局から、各都道府県厚生局に向けて、医療法人とMS法人の役員に関する通知が出されています。

「医療法人の役員と営利法人の役職員の兼務について」↓
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/dl/midashi_shinkyu120330b.pdf

これによると、「原則として」という前置きはあるものの、開設者である個人や医療機関の管理者(院長、施設長)については、「当該医療法人の開設・経営上利害関係にある営利法人等の役職員を兼務していないこと」と、されています。

また、医療法人の役員についても、原則としてMS法人の役職員を兼務しないこと、とされています。

ただし上記は原則論であり、ただし書きにおいて、医療法人の場合以下のケースであれば例外を認めるとされています。

①MS法人からの物品購入、賃貸、役務の提供の商取引があり、医療法人の理事長ではないこと

②MS法人の規模が小さく、役職員を第三者に変更することが直ちには困難であること

③契約の内容が妥当であること

上記①、②、③のすべてを満たす場合であって、かつ医療法人の非営利性に影響を与えることがないものであれば、役員兼務が例外的に認められることになります。

さらに、医療法人が使用する土地又は建物をMS法人が賃貸する場合には、以下のような条件を満たせば例外が認められるとされています。

① 土地又は建物を賃貸する商取引があり、MS法人の規模が小さいことにより、役職員を 第三者に変更することが直ちには困難であること

② 契約の内容が妥当であること

上記①、②の条件を満たし、医療法人の非営利性に影響を与えることがないものであるときには、役員兼務が認められるとされています。

土地、建物に関しては、その取得にあたり医療法人の理事長が銀行融資の保証人になっているケースが多く、MS法人の代表者からはずれることも難しいことがあるため、上記のように、ややハードルが低めになっているものと思われます。

今後、MS法人の役員に関して、具体的な指導があるものと考えられます。役員兼務を継続する場合には、上記条件をクリアすることを確認する必要があります。

 

 

昨年の国税不服審判所裁決のうち、医療法人に対する贈与に関するもので、興味深い事例が公表されています。

定款変更によって持分の定めのない医療法人に組織変更した法人が、土地の寄付を受けました。課税庁は、これを医療法人の受贈益として更正処分を行ったのに対し、納税者は医療法人の設立の際に贈与を受けた資産に該当するとして、法人税施行令136条の4を根拠に、益金不算入を主張していた事案です。

これに対して審判所は、法令の趣旨を解釈したうえで、納税者は医療法施行規則に基づいて、定款変更の方法で「持分の定めのない医療法人」へ組織変更したものであり、従前の医療法人の解散、清算の手続きを経た上で新たに設立されたものではないから、法人税法施行令136条の4の規定を外れると判断しました。 医療法人に対して受贈益課税が発生するという判断です。

妥当な判断だと思います。

持分のない医療法人には、出資評価に伴う相続税の心配がないことから、節税目的で医療法人への財産移転を図るケースは今後、絶えないのではないかと思います。税務上の問題のみならず、ケースによっては安定的な事業承継のありかたとしても、問題があると考えます。