2013年7月の記事

会社創業者など事実上会社をけん引してきた人物が、代表権を返上し平取締役などに就任する際、退職金を支給するケースがあります。 これを「分掌変更による退職金の支給」と言います。

代表権を返上すること、非常勤になること、給与は従前のおおむね半分以下にすること、重要な経営方針決定に関与しないこと、などの厳しい要件をクリアしてはじめて退職金の損金算入がみとめられます。

先日、国税不服審判所の裁決で、納税者にとって厳しい判断が示されました。

非常勤役員となった元代表者は、給与も3分の1程度に減額し、経営判断の根本に関わるアドバイスも行っていなかったといいます。おおむね上述した損金算入の要件を満たしているとも考えられる事案だったようです。

課税庁はこの元代表者が、主力商品の製造管理に関する技術指導を行っていたこと、会社の発行済株式の半数以上を所有していたことから、会社において重要な業務を行い、影響力ある地位を占めていると認定し、退職金を損金不算入としていました。

不服審判所も当局の見解を支持しています。

主力商品の製造管理のアドバイス行っていたとしても、それは熟練者が後継指導をしていたと考えれば、退職後の行為として妥当ではないかとも考えます。また会社に対する影響力をはかる基準として持ち株比率を持ち出すのは、いたずらにハードルを引きあげる判断ではないかと考えます。

経営の根幹にかかわっているかどうかは諸事情を総合判断しての結論であるとは思いますが、報道されている範囲内では納税者に酷な判断であるという印象を持ちました。

 

 

7月の税務当局の人事異動も終わり、税務調査の依頼の電話がかかってくるようになりました。

今年から国税通則法の改正とともに、当事務所の顧問先に対する税務調査前の事前通知は例外なく行われています。 ところが報道によると、この事前通知を行うかどうかについて、課税庁側に有利な抜け道が用意されており、これを使うかどうかは各税務署の「姿勢」にかかっているのだそうです。

国税通則法の事前通知の規定には、「税務署等が保有する情報から、事前通知をすることにより正確な事実の把握を困難にする、または調査の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあると認められる場合」には、事前通知せずに税務調査ができる旨が書かれています。 この規定を根拠に過去に申告漏れや書類不備が指摘されたケースなどは事前通知が省略される事案が発生しているそうです。

せっかくの法改正を空洞化させるような行政実務は厳に慎むべきであると思いますし、国税通則法に拠った対抗策も検討しておかなければならないと考えます。

 

 

相続税法改正の影響で、首都圏を中心に二世帯住宅への関心が高まっているというニュースが大きく取り上げられていました。

4階建てで賃貸借スペースもあり、同居による小規模宅地特例と、貸家評価の減額などをねらった物件が紹介されていました。

首都圏の一等地ならば、大変な相続税節減効果が見込めるでしょう。

ところで、このような事例を聞くにつけ案じるのは、相続人の平等は保たれているのか、不満を抱く相続人はいないのか、という点です。

最近の裁判事例で、次のようなものがありました。

遺言に基づいて、ほとんど唯一の相続財産である賃貸建物の全部をひとりの相続人が相続しました。ところが他の相続人が遺留分減殺請求を求める訴訟を起こし、これが認められて建物は結局、共有持分となったそうです。

当初全部建物を取得した相続人は、この判決の翌日から2か月以内に税務署に対して更正の請求を行うべきだったものを、これを徒過したため払い過ぎの相続税を国から返してもらう機会を失ってしまいました。

そこで、この相続人は、もう一人の(共有持分を認められた)相続人に対して、「不当利得返還請求権」に基づく相続税負担の請求をする訴訟を起こしました。

東京地裁はこの5月、原告である相続人が税務署に対する更正の請求を徒過した時点で、相続税の課税関係は確定しており、不当利得返還請求権に基づく相続税負担分の請求権は認められない旨の判示をしました。

事後的な対応のまずさもあったとはいえ、やはり遺言のありかたや相続実務のスタート時点で問題があった事案だと思います。

数字ばかりを追う節税が、いかに危険であるかを物語る事案です。