法人税の税務最新情報

税務調査の立会をしていて気がつくことのひとつは、調査官の年齢が非常に低くなっていること。経験も少なく知識も充分ではない調査官が、ひとりで調査の現場にやってくることです。

顧問先企業も我々税理士も、忙しい時間をようやく割いて調査に協力しているのですから、手際よく、納税者に負担をかけない調査を望みたいところです。

しかし、調査官から次のような指摘を受けると、怒る気力も失せてしまいます。

会社「甲」は役員「A」所有の土地に会社所有の建物を有し、かつてはAに地代を払っていました。ところが業績の悪化により地代を支払う余裕もなくなり、地代支払いをストップする時期がしばらく続きました。

調査対象年の最終期に、ようやく業績が好転しだしたため地代の支払いを再開したところ、これを法人税の調査において調査官は、「利益調整であるため否認したい」と主張します。

税務署および調査官の名誉のために名は伏せますが、先週の調査でそのように主張し今日に至るまで主張の撤回がないということは、統括官クラスも同様に考えているということだと思います。

法人はあくまでも経済合理性を追求する主体であり、税務上の解釈もそこを出発点とします。使用貸借の関係が発生しているならば、あるいはそのような契約があるならば、それは「仮装契約」とみなして税務上の判断を行うはずです。あくまでも、適正地代の収受が行われるべし、というところから議論はスタートします。

過大な地代支払いがあった場合には、役員給与の指摘が検討されたり、逆に法人地主が受取地代を収受していない場合には、受取地代の認定課税がされたり、というのは以上のような前提で構成される理屈です。

むろんAの個人所得の問題も発生しますが、これはあくまでも別問題。また借地権利金収受の慣行のない地域ですので使用貸借に伴う煩わしい税務の問題も発生しません。

税務署員の質の向上を切に望みます。納税者が税務署員の不勉強に振り回されることがあってはならないと思います。

 

 

医療法人の理事とMS法人の役員との兼務について、厚労省から通知が出ていることは、既報のとおりです。

今後、医療法人成りの手続等で、神経を使わなければならないところだと思います。

医療法人とMS法人との商取引の適正性についても、通知文書は言及していますので、今一度、契約内容の他社比較などを行ってみることが必要でしょう。

ところで契約内容の適正性については、興味深い判決が出ていますのでご紹介します。

医療法人が、コンタクトレンズ販売会社であるMS法人に対して支払った広告宣伝費について、東京地裁は広告宣伝費が、「寄附金」に該当する判断を下しました。

眼科診療所を経営する医療法人が、関連会社の新聞折込チラシ等の宣伝費用について、費用を一部負担していた事案で、その折込チラシ等について医療法人の名称等の記載がない等の理由から、医療法人の負担費用を税務署が寄附金と認定した更正処分を適法と判断しています。

MS法人の経費ではあっても、医療法人が負担すべき筋のものではないという判断です。

同一ビルに医療法人とMS法人が同居している場合など、MS法人の宣伝が事実上医療法人の宣伝の「効果」を見込める場合であっても、医療法人の広告宣伝という体裁を取らなければ医療法人の経費性は認められないと考えなければなりません。 

厳しい判断だと思います。

 

 

日本商工会議所では、東日本大震災による津波などで機械等を流失・損壊した事業者の復興支援を図るため、全国各地の事業者から遊休機械等を無償で提供を受け、被災事業者の要望とのマッチングを行う「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」を実施しています。

日本商工会議所HP↓
http://www.jcci.or.jp/region/tohokukantodaisinsai/matching/

通常、有休資産等を無償譲渡した場合は税務上、時価相当額について寄附とされますが、被災者のための資産等の無償提供は、取引先であれば寄附等には当たらないと定められました。

これに加えて、冒頭の日本商工会議所主催「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」に応じて取引関係のない企業に、資産を無償で提供した場合には「広告宣伝費」として損金算入が可能となる、とのことです。

なお資産の評価は、再取得価額を基礎にした「時価」にて算定することになります。

 

 

平成24年度税制改正で、「長期所有土地、建物等からの買換え特例」(9号特例)の対象となる買換資産のうち土地についてその範囲を限定するよう変更がなされています。

改正により、事務所等の一定の建築物等の敷地の用に供されているもので、面積が300㎡以上のものに限定する見直しが行われましたが、「一定の建築物等」の詳細については政令に委ねられていました。

3月31日付官報で公布された政令で、この一定の構築物等の内容が明らかにされています。

これによると、「事務所、工場、作業場、研究所、営業所、店舗、倉庫、住宅その他これらに類する施設(福利厚生施設に該当するものを除く)」と規定されています。

また、駐車場として利用されており、「建物又は構築物の敷地の用に供されていないことについて政令で定めるやむを得ない事情があるもの」に宥恕規定が設けられていますが、「やむを得ない事情」について政令は次のように定めています。

1)都市計画法第29条第1項又は第2項の規定による許可の手続、
2)建築基準法第6条第1項に規定する確認の手続、
3)文化財保護法第93条第2項に規定する発掘調査、
4)建築物の建築に関する条例の規定に基づく手続き(建物又は建築物の敷地の用に供されていないことが当該手続きを理由とするものであることにつき国土交通大臣が証明したものに限る)その他の行為が進行中であることにつき財務省令で定める書類により明らかにされた事情

つまり、駐車場として利用している場合には、開発許可申請を行っており、許可がおりるまでの間等、まさにやむをえず利用するようなケースのみを想定しており、通常の駐車場への買い換えは事実上、「不可」と考えざるを得ません。

 

 

国税庁は、「役員給与に関するQ&A」に、「業績の著しい悪化が不可避と認められる場合の役員給与の減額」を付け加えています。

国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/hojin/qa.pdf

これによると、現状では数値的指標が悪化しているとまでは言えないものの、役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる場合には、業績悪化改定事由に該当する、という判断が可能とのことです。

また、今後著しく悪化することが不可避と認められる場合であって、これらの経営改善策を講じたことにより、結果として著しく悪化することを予防的に回避できたときも、業績悪化改定事由に該当するという説明を付け加えています。

経営状態が明らかに悪化して、初めて役員給与引下げなどの手段を講じるのでは、経営判断として遅きに失しているのは明白です。

手段を講じなければ悪化することが明らかであること、手段を講じることによって結果的に悪化を免れることができたことは、いずれも業績悪化改定事由に該当するのは、当然だと思います。

Q&Aは至極、常識的な判断を付け加えたものと考えます。

 

 

国税庁は、去る3月21日、平成22年度の法人企業の実態調査として、会社標本調査の結果報告を行っています。

国税庁標本調査結果↓
http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/kaishahyohon2010/kaisya.htm

これによると欠損法人の割合は72.8%にのぼり、過去最悪といわれた平成21年度と同率となっています。 黒字を出しているのは、4社に1社だけということになります。

欠損法人割合が高い業種は、料理飲食旅館業(83.8%)、繊維工業(83.1%)、出版印刷業(80.9%)の順で、これも平成21年度調査と変わりません。

なお、この調査は平成23年3月までに終了した事業年度を対象として調査のため、来年公表される平成23年度調査結果は、震災の影響を受け、より厳しい数字が予想されます。

また、平成22年度の交際費等支出額2兆9,360億円というのは、過去30年間で最低の金額となっています。調査時点からみて、震災の影響と言うよりも生き残りのための必死の削減努力の表れと見るべきでしょう。

寄附金の支出額は6,957億円となっており、前年度比で27.3%の増加で、寄付金の統計を開始した昭和37年分以降で過去最高額となっています。これは東日本大震災を受けての数字と考えられますので、平成23年3月に寄付金の額が集中したことを物語っています。

平成23年度標本調査では、交際費の切り詰め、寄付金の増額が、よりくっきりしたかたちで数字に表れることが考えられます。

 

 

平成24年4月1日以後に開始する課税期間から、消費税の仕入税額控除に係るいわゆる「95%ルール」が見直されます。

課税売上高5億円超の事業者については、課税売上割合が95%以上の場合であっても、仮払消費税を全額仕入税額控除できなくなります。

ここで留意すべきことは、控除できなかった仮払消費税の法人税法上の損金算入要件です。

控除対象外消費税等は、法人税法上損金算入することができるのが原則ですが、「資産」に係る控除対象外消費税額等については、「損金経理」が要件となっています。

「経費」に係るものについては損金経理の必要なく損金算入が可能なので、両者を混同しないように注意しなければなりません。

該当企業は、税抜き処理会計システムを個別対応にするか、などの対応に追われていることでしょうが、法人税法上のシステム対応も必要とされるところです。

 

 

見直しが検討されていた、法人契約がん保険の税務処理について、国税庁からパブリックコメントが出ています。  この件でパブリックコメントが出たのは初めてであり注目を集めています。

国税庁HP↓
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=410240007&Mode=0

法人を契約者および保険金受取人とし、役員および従業員を被保険者として加入した場合、一定の要件をクリアすることで、支払保険料の全額損金算入が認められるため、がん保険節税として知られていました。

以前から、保険料の前払い部分も損金算入できることについては、問題視されていましたが、今回、国税庁がついに通達改正に向けて一歩を踏み出しました。

パブリックコメントによると、全額損金で処理をしていた法人がん保険が、改正後は1/2損金になるという内容です。ただし、既加入契約に関しては全額損金のままで、改正後の契約分からは1/2になる模様です。

パブリックコメントの締切日が3月29日なので、少なくともこの日までは既契約として大丈夫なのではないかなど、憶測を呼んでいます。

改正の境目(と思われる日)に向けて、駆け込み需要が発生する可能性もあります。

 

 

昨年12月に公布された「税制構築法」等により、法人の減価償却制度が改正され、平成24年4月1日以後に終了する事業年度から適用されます。

国税庁HPでQ&Aが公表され、個別の取扱いが整理されています。

国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/hojin/kaisei_gaiyo2011/pdf/1112kaisei_faq.pdf

原則として平成24年4月1日以後取得の減価償却資産について、従来の償却率が引き下げられ、250%定率法は200%定率法に変更されます。

注意すべき点は以下の事項です。

改正事業年度において減価償却資産について定率法を選定している場合には、平成24年4月1日からその事業年度終了の日までの期間内に取得をされた減価償却資産については、その減価償却資産を平成24年3月31日以前に取得をされたものとみなして、250%定率法により償却することができる特例が設けられています。
( この特例措置は法人が任意に選択することができ、選択するに当たり所轄税務署長への届出の必要はありません)。

また、この逆パターンの選択も可能です。

「200%定率法の適用を受ける旨の届出書」を税務署に提出することにより、250%定率法の適用対象資産についても、改正後の事業年度において200%定率法を適用することが可能です。
事務手続きの煩雑を避けるためなどのための配慮です。

今年4月決算法人から適用される改正ですので、今から注意をし準備をしておく必要があります。

 

 

30%の特別償却、7%の税額控除のいずれかを受けることができる「中小企業投資促進税制」は、平成24年度税制改正大綱において平成26年3月31日まで延長することとされています。

ここで注意すべきことは、従来、適用要件に柔軟性があった「デジタル複合機」に厳格な要件が課されるようになるという点です。

現行では、デジタル複合機に関して、複数台購入した合計額が120万円以上になれば制度の適用が可能でした。
国税庁HP↓
http://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5433.htm

ところが平成24年4月1日以降は、1台・1基の価額が120万円以上のデジタル複合機のみが適用対象となります。

まとめ買いによる特例適用が可能なのは、平成24年3月末までとなりますので、3月期決算の検討課題にされてはいかがでしょうか。

 

 

平成24年度税制改正で注目される点のひとつに、特定資産の買換え特例の延長があります。

非常に使い勝手のよい「9号買換え特例」は3年間延長されたものの、土地に買い換える場合、買換資産の用途制限と土地面積制限(300㎡以上)が加えられました。

買換資産の用途制限のうち、「賃貸用住宅」が含まれるのか否か、「政令」の内容待ちでしたが、賃貸マンションも「可」となる見込みのようです。

ただし、300㎡要件が課されることで、マンション1室への買換えは困難となります。

なお用途制限により「駐車場」は原則「不可」とされますが、「やむをえない事情がある」場合のみ、特例の適用が認められとされています。 この「やむを得ない事情」とは、例えば開発許可申請を行っており、許可がおりるまでの間、駐車場として利用するような事情を指すのだそうです。

例外規定も厳しいため、駐車場への9号買換え特例適用は難しいと考えるべきでしょう。

 

 

国税庁は、グループ法人税制で繰り延べられた譲渡益が実現した場合などの、非上場株式評価について、質疑応答事例を公表しました。

これによると、完全支配関係がある法人(譲受法人)において、当該資産を再譲渡した場合など、譲渡会社において当初繰り延べていた「譲渡益」が法人所得に計上される場合には、譲渡会社の株式評価(類似業種比準方式)に当たって、「1株当たりの利益」に組み入れる必要はない、ということです。

すなわち、いったん繰り延べており外部事情で実現した譲渡益は、非経常的な利益であるため、これを除外して考えて良いということです。

至極、常識的な考え方だと思います。

一方で、含み損がある資産を譲渡し、グループ法人税制によって実現されずに繰り延べられる譲渡損失がある場合にも、譲渡損失はなかったものとして株式評価が行われます。

資本関係のない外部に売却した場合には、株価を低く抑えられるのと比較すれば、不利になりますが、そのような狙いも込めてのグループ法人税制でしょうから、これも当初の予想通りの結論です。

資産税のタックスプランニングにおいて、グループ法人税制から離れて非上場株式の評価を行ってはいけない、ということです。