2015年の記事

一人っ子家族で、両親が相次いで亡くなった場合、例えば父が亡くなって相続財産が未分割なまま、母が亡くなった場合、不動産登記が従前よりも複雑になっています。

 

一人っ子が父の相続財産をすべて相続登記し、母の相続財産を引き続き相続登記するという従来認められていた方法は、昨年の東京地裁・高裁判決からできなくなっています。
まず、父の財産を法定相続分で母と一人っ子との共有財産としたうえで、母死亡後に母固有の財産と、いったん共有持分とした父親財産とを一人っ子が引き継ぐという段取りになるのだそうです。
子が複数の場合には、第一次・第二次相続のいずれの場合にも複数の相続人がおり、遺産分割協議が成り立つので、上記のような面倒な手続きは必要ありません。これでは判決の意図するところがわからず、司法書士さんにも大変不評な判決です。

 

判決全文→http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/478/084478_hanrei.pdf

 

税務上は「相次相続控除」という仕組みがあるので、結果の税負担は同一であるようにも見えますが、例えば第一次相続の財産が基礎控除以下であって、第二次相続の相続財産が大きな場合では、税負担に差異が生じるのではないでしょうか。
第一次相続ですべて子が相続しておれば、第二次相続の税負担が少なかったはずなのに、共有持分となってしまったばかりに、第二次相続の負担が大きくなるのではと思います。

税負担の平等という観点からも、手続きに見直しが必要ではないかと考えます。

 

 

10月2日国税庁より、本人交付用の源泉徴収票や支払調書などには、マイナンバーを記載しないよう取り決めた旨の発表がありました。

国税庁HP
↓↓↓
https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/pdf/mynumber_gensen.pdf

 

源泉徴収票は住宅ローンをはじめ各種ローンの申し込みや、奨学金の申請、保育所への提出など、「民」への提出の機会の多いものです。
これらすべてについて、マイナンバーのマスキングを施すなどの措置がなく第三者が書類を提出すれば、「情報漏洩」に該当するところでした。

今回のマイナンバー不記載の決定によって、上記リスクは軽減されることになります。

本人交付用で記載が不要になるのは次の書類です。
・給与所得の源泉徴収票
・退職所得の源泉徴収票
・公的年金等の源泉徴収票
・配当等とみなす金額に関する支払通知書
・オープン型証券投資信託収益の分配の支払通知書
・上場株式配当等の支払に関する通知書
・特定口座年間取引報告書
・未成年者口座年間取引報告書
・特定割引債の償還金の支払通知書

 

 

国税庁は現行事務年度から、東京、名古屋、大阪の3局にプロジェクトチームを設置し、資産規模の特に大きい「超富裕層」に対する管理を強めることにしています。

 

調査を行う上で指針となる「試行通達」をこの事務年度中(H27.7~H28.6)に示したうえで、来事業年度(H28.7~H29.6)から取り組む予定とのことです。
わずかに漏れ聞こえる情報では、A・B・Cに3区分された対象者により国税当局の対応が異なるという話ですが、その資産規模の分類基準などは公にされていません。

 

なお、この試行通達は国税局のHPなどで公表させることのない、完全な内部文書扱いになる予定とのことです。

 

 

1日の路線価発表に伴い、相続税のご依頼を受けているお客様に、財産評価の変更点をお知らせしました。
 

福岡市内では、最高値の中央区天神2丁目が5.6%の伸びを見せており、再開発の進む博多駅前2丁目(駅前通り)で9.8%増という大きな伸びが見られます。

市内中心部については、商業地、住宅地に係らず堅調な伸びですが、今回ご相続案件の物件を見ていて、さほど人気スポットともいえない住宅地区も5%~6%の伸びを見せているところが目立ちます。
 

東京資本の福岡都心部への投資が熱を帯びる一方、過熱気味であるという共通認識も芽生え始めており、いったん冷却させる動きが出てくるかもしれない、とのメディアでのプロのコメントも見られました。

 

 

「結婚・子育て支援信託」や「教育資金贈与信託」は俗に「税理士いらず」とも呼ばれ、税理士の評判が極めて悪い制度です。

これは単に職域を荒らされるといった単純な理由からではなく、我々に任せてもらえれば、もっとタイムリーかつ効果的な贈与計画が立てることができるし、途中でよりよい制度への切り替えもできるのに、という税理士の「歯がゆい思い」からです。
 
それでも、なぜ納税者がこの制度を選択するのかといえば、言うまでもなく信託銀行の信用力があるからでしょう。
そしてもうひとつ、財産を残す側が「認知症」になって成年被後見人になってしまった場合、相続対策として打てる手が全くなくなってしまうからでもあります。
判断能力があるうちに、打てる手はすべて打っておきたい、そのためには複数の相手にまとまった金額を移転できる制度を最大限利用しよう。財産を残される側の気持ちとしては痛いほどわかります。
 
先般、家庭裁判所から専門職後見人に任命され、「成年後見支援信託」を開設するお手伝いをして、認知症の資産家を親族に持つ方のご苦労を、身近に経験しました。また本人の判断能力さえあれば、打つ手はいくらでもあるのに、という悔しい思いを生で聞く機会を持ちました。

我々税理士も、かりに元気な資産家からのご相談であっても、本人の判断能力は永遠に健在ではないという事実に立ち返って、アドバイスをしなければならないと痛感するところです。

 

 

医療法人の出資持分を、出資者全員が放棄し、相続税法66条4項に照らして贈与税が課せられるとして、その場合の贈与税課税の対象額がいくらになるのか。
たとえば出資金相当額を「基金」に振り替えるとして、その出資金相当額が課税対象になるのかどうかについて、明文での説明がなかなか見いだせないため、実務家の判断を迷わせるところです。
 
平成26年1月23日付 厚生労働省医政局指導課事務連絡のなかのQ2に実務上の判断が詳しく載っています。
↓ ↓ ↓
下記アドレスに掲載
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000035432.pdf
 
出資金相当分は贈与税の課税対象から外されるというのが正解です。
厳密な法解釈上は、問題ありなのかもしれませんが、これは課税庁とのすり合わせ済みの文書であることも付言されています。

 

 

昨日に引き続き、平成27年 類似業種比準価額の公表について
 
公表数字は国税庁の下記サイトをご覧ください。
↓ ↓ ↓

http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hyoka/150601/index.htm
 
内容をよく見てみますと、業種による程度の差はありますが、昨年12月の値に比較すると株価Aは全般に引き下げられており、平成25年平均と平成26年平均とを比較すると、さほど大きな変動はない、というのが全体のトレンドのようです。
 
製造業(10)H25年平均 260 → H26年平均 222
卸売業(72)H25年平均 179 → H26年平均 199
小売業(84)H25年平均 278 → H26年平均 274
不動産(97)H25年平均 290 → H26年平均 281
その他(110)H25年平均 446 → H26年平均 248
 
左側のH25年平均値は今年春に公表された数字、右側のH26年平均値は今年、標本会社を入れ替えて6月15日に公表した数字です。
平均値の変動という点に注目すると、「その他の産業」の下落が特に目立ちます。

 

 

平成27年1月、2月の類似業種比準価額がようやく公表されました。

医療法人が適用される「その他の産業」の値が標本会社の入れ替えによってどのように変わるのか、非常に興味深いところでしたが、大幅な評価の引き下げという、思わぬ結論に達しました。
 
今年春に公表された平成26年12月のA値は591でしたが、標本会社の入れ替えによって、平成26年のA値平均は248と半額以下まで下がっています。
出資持分のある医療法人にとって、事業承継対策のとりやすい環境が整ったことになります。
 
標本会社の入れ替えによって、出資評価の基準が大幅に変更されることは予測可能性を阻害する要因として批判されてきましたが、過去2年間の極端な高値と、今回公表値との落差を見ると、特にその思いを強くします。

 

 

平成27年度税制改正に盛り込まれた「財産債務調書」の提出義務について、その解釈にばらつきがありましたが、以下のように解するのが正解だそうです。

 

1. その年分の所得金額が2千万円超であること

 

という条件に当てはまり、

「なおかつ」

下記2「または」3の条件に当てはまる人は提出義務者である。

 

2. その年12 月31 日において有する財産価額の合計額が3億円以上であること

 

3. 同日において有する国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の対象資産の価額の合計額が1億円以上であること(つまり有価証券等の保有額が1億円以上であること)

 

従来は、所得2千万円超である人は「財産債務明細書」を提出することになっていましたが、平成27年度分の確定申告(来年3月申告期限分)から「財産債務調書」の提出に変わり、提出しない場合には所得税・相続税の加算税にペナルティが付くことになります。

 

その提出義務者が、従来の2千万円超の「高所得者」ではなく、2千万円超の高所得者であり、なおかつ上記2または3の条件に合致する「資産家」に絞られることになります。

提出義務者に制限を加えたうえで、提出しない者へのペナルティ(提出した者への軽減も)を課して、手続きを厳格化するという改正です。

 

 

平成27年度税制改正大綱で、直系尊属からの住宅取得資金贈与の非課税措置が、平成31年6月まで延長され、拡充されています。

大綱では消費税率引き上げ前の駆け込み需要や、引き上げ後の受注落ち込みを抑制する目的で、引き上げ前後の期間(平成28年10月~平成29年9月)には、3千万円の非課税枠を設けるなど、大胆な措置を講じています。

 

さて、大綱では消費税率が10%である場合と「それ以外の場合」とに分けて、時系列の非課税限度額一覧表を掲げています。

この「それ以外の場合」に消費税率引き上げの平成29年4月以降の時期も含まれることが何を意味するのか、一目では判然としません。

 

この「10%が適用される以外の場合」とは中古住宅の個人間売買を想定しているのだそうです。売主が「事業者」でない個人から住宅を取得した場合、消費税10%適用外となるので、このようなケースにまで大幅な非課税枠を設ける必要はないとの判断のようです。

 

さて問題は、この法の趣旨を理解せずに3千万円の非課税枠を前提に、親が取得資金を負担してしまった場合のことです。「良質な住宅用家屋」を個人間で取引した場合には、1200万円の非課税枠しか使えず、差額の1800万円に贈与税がかかることになります。

十分な注意が必要とされるところです。

 

 

平成27年度税制改正大綱に盛り込まれた「出国時課税制度」は、富裕層をターゲットとした税制として注目を集めています。

 

有価証券等対象資産を1億円以上保有している個人が、キャピタルゲイン非課税国に移住して、売却益課税を逃れることを防ぐことを目的とし、含み益に対して出国時に課税するという制度です。未実現利益への課税ですので、5年間の納税猶予というかたちで納税者をけん制するにとどめ、実際売却時に納税猶予が解除されるという仕組みになっています。

 

さて、この制度の対象者は「出国直近の10年以内で5年超居住者であった者」となっています。この要件を満たす限り、外国人も制度の対象となることが確認されています。

 

外資系企業の社員である外国人が、日本に居住している間に株式を購入し、これをキャピタルゲイン非課税国であるシンガポールなどに転勤して売却するといったケースでも、当然に出国時課税制度が適用となるようです。

 

同制度は、平成27年7月1日出国からの適用が予定されています。

 

 

勇は5人姉妹のうち誰かが、義父と喜んで同居すると言い出すとは思えなかったし、断られると分かって義父が相談を持ちかけているとも考えられなかった。大吉のプライドの高さはよく知っているからだ。
そうすると、最近、大吉の店に泊りがけで仕事をすることもある日向子の顔が、突如頭に浮かんできた。
純粋培養で育てられて、自分の人生を打算抜きで真っ直ぐにしか見ることのできない、あの日向子に、まさか大吉を籠絡するような企みが浮かぶはずはない。勇はそう思うのだったが、どうしても日向子の顔が頭から離れないのだ。

 

いや、待てよ。日向子の母親の長子はちゃっかり者で、こういう「利に聡い」話に絡んできそうだ。これまでの物語展開からすると、ちょうど彼女に出番が回って来る頃だ。そう言えば、いかにもそのような気がする。
もうこの物語に誰が登場して、自分が誰なのかも判然としなくなってきた。頭の中が混沌とした小宇宙のように渦巻いている小島勇の正月であった。
(完)

 

というわけで、筆者にはこれ以上の物語を続ける「堪え性」が無いのですが、どうも、このような愉快な想像をかき立てる、湧き立つような気分が、去年の暮れあたり財務省の一室に横溢していたのではないか、と思うのです。

 

「児玉くん、この結婚資金300万てあたり、冴えてるねー。」
「先輩、茶化さないでくださいよ。出来るだけ資金使途はバラすようにっていうお達しでしたから、ちゃんと国会図書館で統計を見てきたんですから。」
「いや、悪い悪い。お勤めご苦労様です。」

 

なんていう明るい会話が、霞が関の煌々と明かりの灯る執務室で、展開されていたのだと思います。いや、そうに違いありません。

 

 

大吉の表情に一気に困惑の色が広がった。
孫の日向子はどうしようもなく可愛い。しかし、あの子だけを特別扱いするつもりなど毛頭なかった。ましてや5人姉妹の娘たちの人間関係がようやく落ち着きかけた今になって、こんな話を娘たちに出来る道理はなかったからだ。
それにしても、まだ少年のあどけなさを時折見せる高木に、これほどの説得力と威圧感とを持たせてしまう相続税の仕組みというのは、冗談ではなく魔界の妖力を帯びているのではないか、と背筋の寒くなる思いもする大吉であった。

 

そういう経緯があって、大吉はこのたぐいの話に動じない五月に、二世帯住宅の話があることを話す気持ちになったのだ。もちろんそこに同居するのが日向子かもしれず、その場合には遺言でもって日向子を相続人に加えなければならない、などということはおくびにも出さなかった。

 

「営業の高木くんが、俺の体の自由が効かなくなった時のことなんかを心配してな。誰か同居してくれる人がいれば安心でしょう、なんてことを言うんだよ。」
娘たちの誰一人として、すすんで同居すると言いだすはずがないと大吉なりに考えたからこそ、「じゃあ、板前修行の日向子がいいんじゃない」と娘たちの方から言ってくれるかもしれない、そういう目論見もあった。

 

相続税対策の営業戦略とは気がつかない五月は、誰が父さんの身の回りの世話をすることになるのかしら、という具合に、勇に相談をしてきた。これを聞いた勇は自分自身の生前贈与のドタバタもあったので、これは怪しいとピンときたのだ。

(続く)

 

 

「いずれ日向子さんがこの店を引き継げば、大将も肩の荷が降りますよね。そのうえ日向子さんがこの家で生活するようになったら、大将もどれだけ心強いことでしょう。日向子さんが将来結婚してご夫婦で同居するようになると、それはもう賑やかでしょうね。」
妻に先立たれて以来、ずっと張り詰めた気持ちでいた大吉にとって、孫の日向子が同居してくれるという話は、まるで心の奥の氷塊をじんわりと溶かしてくれるような、甘美な効果をもたらした。
高木は畳み掛けるように続ける。
「そこで、二世帯住宅のご提案なんです。平成26年から税制上の規制が緩くなって、外階段で繋がっている様なほとんど別生活の建物でも税制の優遇が効くようになり、なんと居宅部分の土地の評価が80%も減額されてしまうんです。そのうえ、事業を営んでいる場合には、その事業を引き継ぐひとが相続されたら、その事業用部分の土地評価についても80%の減額が効きます。大将は土地評価の値上がりを気にしておられたから、80%オフは夢のような朗報ですよね。」
もう騙されてはいけないと、心に決めたはずの大吉の気持ちは、80%オフの一言で大きく揺り動かされた。
高木はここが攻めどきだと見極めたらしく、深呼吸をして声のトーンを変えた。
「そう、夢のような話なんです。しかし、ひとつだけ越えなければならないハードルがあります。一緒に同居してくれたり、事業を引き継いでくれたりするひとは、法定相続人である必要はありません。大将の親族であればそれで問題はない訳です。しかし日向子さんはお孫さんですから、親族ではあってもこのままでは相続財産を受け取ることはできません。だからひと工夫が必要なんです。」
高木は声の調子を一段低くして、大吉に重大な内緒の話をするように、ささやきかけるように続けた。
「大将が遺言書をしたためて、この土地を日向子さんに遺贈する、と指示すればいいんです。そうすれば日向子さんは堂々と相続財産を受け取ることができます。」

(続く)

 

 

岡倉大吉の店で板前見習として働く壮太の友達がハウスメーカーの営業マンで、その彼から二世帯住宅を建てないかという提案があり、日に三度は大吉の携帯に営業電話がかかってくるというのだ。
大吉は脱サラ後、退職金をはたいて自宅の一部を料亭として改造し、料理人として第二の人生を送っている。見ようによっては、豊かな人生であると言えるかもしれない。しかし馴染み客だけを相手にする商売だけに、経済的に豊かであるとは必ずしも言えない身分である。当然、相続税の心配など自分には関係ないと大吉は思い込んでいた。
ところが、2020年に東京オリンピックが開催されると決まったあたりから周りの様子が変わり始めたのだ。地価がじわじわと上昇し始め、狙いすましたかのようにその年の2年後には相続税の大改正があった。料亭の収入から蓄えができ始めたのも、時期が悪かったのかもしれない。
相続税がいかに悪意に満ちた仕組みで、どれほど役人の悪知恵を結集してできあがった災厄であるかという話を嫌というほど聞かされ、誘われるままに生前贈与の大金を孫の口座に振り込んでしまった。
もう騙されないぞと心に決めた大吉であったが、自宅兼料亭のある土地の価格がとどまる気配もなく上がり続けるのがどうにも気になっていた。そこへ壮太の友達でハウスメーカーの営業マンである高木から話があったのだ。

 

「皆さん、ゆったり構えすぎるんです。早く手を打っておけば、どうってことないのに、いざ重たい腰を上げる段になって、もう手が付けられなくなっているケースばっかりなんですから。」
孫ほどの歳の高木が熱心に話すのを、大吉はさえぎることができなかった。もう少し話を聞いてやろうと、優しい目でうなずいてしまったのがいけなかった。高木は「これは脈がある」と踏んだのだ。

(続く)