2015年1月5日 渡る世間に税制改正(その一)

平成31年、新年を迎えたばかりの小島勇の気持ちは晴れなかった。

平成29年に消費税率が10%に引き上げられた直前の駆け込み需要によって、例年にない業績を上げた勇の経営する会社ではあったが、その後の反動は思いのほか大きく、平成30年度決算では赤字に転落しそうな雲行きだった。

勇が家族そろった正月の席にも、浮かない顔をしているのは、会社の業績が思わしくないことばかりが原因ではなかった。娘の愛のことが気がかりだったのだ。

 

「年末に挨拶に来た安菱信託銀行の太田くんが、愛の結婚式の日取りを聞いてきてな。彼にはその話はなくなったって言ったつもりだったんだが、まだだったみたいで。太田くん翌日、飛んできて、こんな写真を置いていったよ。」

勇は愛の顔をちらと見やってから、太田の持ってきた「見合い写真」を、愛の前に差し出すのだった。

安菱信託銀行では、見合い写真をストックしておくのが当たり前になっているらしい。平成27年度税制改正以来「リスク対応」として、全社を挙げて取り組んでいるというのだ。

(続く)