福岡市の税理士 税理士法人 福岡中央会計
「税務最新情報」
2012年2月23日 相続開始までの値上り益への二重課税
相続によって土地を取得したとき、その評価は当然に相続開始時の時価で算定されます。
一方、この相続によって取得した土地を売却した場合、譲渡所得の計算上、控除できる取得価額は、被相続人の取得価額を引き継ぐとされています。 つまり、被相続人が取得して相続開始までの値上がり益は譲渡所得の計算上控除されません。 このため、相続時までの増加額という経済的価値が相続税の課税対象額と、その後の譲渡所得の課税対象額に二度含まれることになるので、相続税と所得税の二重課税に該当するという主張は根強くあります。
長崎年金訴訟で、相続税と所得税の二重課税の問題を追及した納税者の主張が、最高裁で認められて以来、とくに相続税と所得税をめぐる二重課税について議論が活発になりました。
そのようななか東京国税不服審判所は昨年末、土地譲渡にあたり被相続人生前の値上がり益分を、譲渡所得計算上控除すべきだとする納税者の主張を退ける裁決を下しました。
納税者は、相続開始時までの値上り益相当額は、所得税法9条1項15号の非課税所得に当たると主張しましたが、裁決は、贈与等により取得した資産の取得費等はいわゆる取得価額引継方式を採用していることを理由に、値上り益分も課税対象に含まれると判断しました。
法は被相続人の保有期間中の値上り益をも含めて課税を行うことを予定している、という解釈です。
所得税法の規定ぶりから考えて、裁決の判断は致し方ないと思います。二重課税の議論を深めて、立法に反映させる努力が必要と感じます。
2012年2月17日 東日本大震災の義援金に関する取扱いで注意
東日本大震災の義援金に対する所得税確定申告の取扱いで、一部誤解が見られるという報道がありましたのでご紹介します。
義援金等が、国又は地方公共団体に対する寄附金や財務大臣が指定するものなど、一定のものであるときは、「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。
このうち、中央共同募金会の「災害ボランティア・NPO活動サポート募金」など、「特定震災指定寄附金」については、寄付金控除との選択により、「税額控除」の適用も受けることができます。
国税庁HPの東日本大震災義援金についての解説↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h23/jishin/gienkin/toriatsukai.htm
一部、誤解が見られる事案とは、日本赤十字社の「東日本大震災義援金口座」に直接振り込まれた義援金について、「税額控除」が可能と理解されているケースです。
公益性の高い団体の活動への寄付であるため、そのように理解されるのでしょうが、この寄付金に対しては「寄付金控除」の適用のみ認められているため、注意を要します。
税額控除について、中央共同募金会が「可」で、日本赤十字社が「不可」であることには、一般の理解を得られにくいところでしょうが、震災特例法と平成23年度税制改正法案の成立時期のズレなどから、このようなかたちになってしまったようです。
2012年2月15日 マイナンバー法案の閣議決定
政府は昨日、社会保障・税に関わる共通番号制度に関する法案(マイナンバー法案)を閣議決定しました。
消費税増税に伴う、低所得者対策である「給付付き税額控除」を導入するならば、共通番号制度は欠かせないものでしょう。 一方で、国民に対する制度自体に対する周知不足と、プライバシー侵害への不安が、法案成立の大きなハードルになることは必至です。
ちなみにアメリカでは社会保障番号(social security number=SSN)が、事実上の国民識別番号として利用されています。 納税者番号、社会保障サービス受給番号としての利用に留まらず、運転免許証取得や更新、銀行口座の開設など、あらゆる場面で個人認証のための手段として使われています。
筆者はアメリカ滞在中、SSNで無作為に選ばれる「陪審員」に当たってしまい、大変な思いをしたことがあります。
わが国で共通番号制度を導入する場合、生体認証を組み込んで「なりすまし」などによる被害を排除することもあらかじめ検討しておかなければならないと思います。 生体認証には当然に「人権」の問題もかかわってきます。
難しい問題にいよいよ手をつけたという感がありますが、拒絶反応だけで議論自体を拒絶することは最も慎むべきことだと思います。
2012年2月14日 相続開始後の契約解除の効果
相続開始後に相続人が行った契約の解除によって、相続財産の法的位置づけが代わるのかどうかについて、興味深い判決が広島地裁で下されました。
この事件は、被相続人が土地建物の売買契約を交わして手付金を受け取った後に相続が開始し、相続人が手付金の倍額を支払って売買契約を解除した後、課税財産を土地建物として申告したケースです。
課税庁は、課税財産は土地建物ではなく、売買残代金請求権であるとして更正処分をしてきたため、相続人がその取消しを求めていました。
土地の相続税評価額は、一般的に時価の8掛け程度、建物の相続税評価はさらに低くなるのが相続税評価の世界であるため、相続財産が土地建物なのか売買代金請求権なのかによって税負担が大きく異なるわけです。
課税庁の論理は、被相続人と買い手との間には、強固な売買契約履行の意思があった為、相続人の意思や行為に関わりなく、代金債権こそが相続財産であるというものでした。
広島地裁は、事実関係を整理した上で、売買契約の解除は手付契約に基づく解除権の行使による解除であるから、国税通則法23条2項3号の「解除権の行使によって解除された場合」に該当すると認定し、納税者の主張を認めました。
判決によると、手付契約に基づく解除であるから土地建物の売買契約は被相続人が売買契約を交わした日に遡って消滅し、相続開始日においては売買契約が存在せず、売買代金債権も存在しなかったという解釈になります。
相続開始時には契約を解除しうる状態にあり、これに基づいて現に契約が解除されている以上、被相続人の意思や契約当事者との関係は、第二義的な意味合いしか有しないと考えるのが、当然だと考えます。
ちなみに、国側敗訴のまま判決は確定しています。
2012年1月25日 グループ法人税制と非上場株式評価
国税庁は、グループ法人税制で繰り延べられた譲渡益が実現した場合などの、非上場株式評価について、質疑応答事例を公表しました。
これによると、完全支配関係がある法人(譲受法人)において、当該資産を再譲渡した場合など、譲渡会社において当初繰り延べていた「譲渡益」が法人所得に計上される場合には、譲渡会社の株式評価(類似業種比準方式)に当たって、「1株当たりの利益」に組み入れる必要はない、ということです。
すなわち、いったん繰り延べており外部事情で実現した譲渡益は、非経常的な利益であるため、これを除外して考えて良いということです。
至極、常識的な考え方だと思います。
一方で、含み損がある資産を譲渡し、グループ法人税制によって実現されずに繰り延べられる譲渡損失がある場合にも、譲渡損失はなかったものとして株式評価が行われます。
資本関係のない外部に売却した場合には、株価を低く抑えられるのと比較すれば、不利になりますが、そのような狙いも込めてのグループ法人税制でしょうから、これも当初の予想通りの結論です。
資産税のタックスプランニングにおいて、グループ法人税制から離れて非上場株式の評価を行ってはいけない、ということです。
2012年1月19日 逆パターン養老保険に関する最高裁判決
法人契約の養老保険契約の満期保険金について、その一時所得計算の判断で、納税者が敗訴する判決が最高裁で下されました。
契約者=医療法人、被保険者=理事長の子、死亡保険金受取人=医療法人、満期保険金受取人=理事長 とする契約で、法人税基本通達9-3-4(3)の死亡保険金、満期保険金の受取人が逆となるため、「逆パターン養老保険」とも呼ばれています。
医療法人は、支払保険料のうち2分の1を役員報酬とし、残り2分の1を法人の支払保険料としていたところ、理事長の満期保険金の一時所得計算に当たり、法人が負担した保険料全額を控除していた点が問題とされていたものです。
最高裁判決では、一時所得計算上控除できるのは、一時所得を得た個人が自ら負担したものに限定されるとし、役員報酬として処理した分についてのみ控除が認められるという判断を下しました。
ちなみに、平成23年度税制改正では、すでに一時所得の計算方法を今回最高裁判決と同様にするよう明文化しています。
2012年1月13日 役員給与の給与所得控除改正は「当面なし」
1月6日に政府・与党で決定された 「税と社会保障の一体改革」 素案ですが、その中に、役員給与の給与所得控除を改正する旨の記述がありません。
平成24年度税制改正大綱では、給与収入が1500万円を超える給与所得控除について245万円の頭打ちを設けるよう改正したものの、役員給与等に係る給与所得控除については「税率構造を含む改革の方向性を踏まえ、引き続き検討していきます」と述べるに留まっていました。
そこで、一体改革法案のあり方が注目されていたのですが、法案素案では言及がまったく見られないことから、野党の反発を見越して改正そのものを棚上げした、という見方が支配的です。
もともと、特殊支配同族会社に対する課税があまりに悪評で、これを選挙公約通り廃止するのと「差し替える」ように提示されたのが、役員給与の給与所得控除の縮減案でした。
平成23年度税制改正法案が通っていれば、「天下の悪法」として成立していたものですが、当面、復活はないものとみて良いと思われます。
2012年1月11日 不動産売買契約の途中で相続が発生したケース
土地建物の売買契約の途中で相続が発生したケースで、課税庁は「売買残代金請求権」を
相続財産と主張したのに対し、相続発生後、納税者は「手付け倍返し」で契約を解除しており、
土地建物が相続財産であるとして争っていましたが、広島地裁は納税者の主張を全面的に認める判決を下しました。
国税通則法では、
① 契約が解除権の行使によって解除された場合、又は
② 契約の成立後生じたやむを得ない事情により解除された場合
には、解除された後の事実に基づいて、課税標準の是正ができる、となっています。
裁判では「解除権の行使」に当たるかどうかについて、約定文言や当事者の行動をめぐって双方の主張が食い違いましたが、裁判所は、解除権の行使ができない客観的事実が確認できないとして、「解除権の行使」による契約の解除であると判断しています。
また、相続人らが当該土地建物を売却しなければ、相続税の納税がかなわないという思いこみのもとに、いわば動機の錯誤のもとに契約を行っており(相続後充分な現預金・生命保険が確認されている)、これらを「やむをえない事情」と納税者側が主張していた点についても裁判所は納税者の主張を支持しています。
つまり納税者の全面勝訴判決となりました。
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